オペラ『さよなら、ドン・キホーテ!』
スタッフ
台本・演出:鄭義信
作曲・音楽監督:萩京子
美術:池田ともゆき
衣裳:宮本宣子
照明:増田隆芳
振付:伊藤多恵
擬闘:栗原直樹
音響:藤田赤目
舞台監督:藤本典江
ものがたり
1940年代フランスのいなか町。古い厩舎のある牧場で馬を飼って暮らす、トーマスベルの父娘。馬は戦地へと駆り出され、もう何頭も残っていない。ベルは学校が嫌いだ。自分らしくいることのできない学校になんか行きたくない、と、いつもで本を読んで過ごしている。大好きなのは「ドン・キホーテ」。いつか自分は男になって世界を旅する騎士になることを夢みている。ある夜、ベルは厩の隅に隠れていた少女サラをみつける。サラは家族とはぐれ逃げのびてきた、ユダヤ人だった。ベルはサラに、僕が君を守ってあげると約束する。しかし、戦場から遠く離れたこの町にも戦争の影は忍び寄って来る……。片足が悪く兵士になることができない馬丁のルイ、過去を抱えパリから移り住んできたベルの担任のオードリー、そして厩舎で飼われる“馬”の口シナンテサンチョ。2匹の馬と、ある家族をとりまく物語。
作曲家より
今この時代に伝えたいこと

鄭+萩コンビの作品はつねに涙と笑いに満ち、見終わると元気が出るオペラと言われてきましたが、今回は底抜けに楽しいオペラ、というわけにはいかなくなりました。このような時代にこそ伝えなくてはならないことをオペラで伝えたい。台本+演出の鄭義信さんも作曲家である私も同じ思いです。
このような暗い、苦しい時代は、突然やってきたわけではなく、徐々にその足音は聞こえていました。貧困、差別、偏見……そして戦争が足音を立てて近づいてきています。今まさに、さまざまな暴力にさらされている人々に思いを馳せること。わたしたちにできることはわずかですが、それでもオペラで何が伝えられるか? と考えました。

オペラ『さよなら、ドン・キホーテ!』では2匹の馬が人間を批評します。そこからにじみ出る苦い笑いがあります。1940年代のフランスの田舎を舞台としていますが、この作品のテーマは? と問われれば「今この時代そのもの」と答えるしかありません。
戦争、家族、LGBTQ、愛、友情、宗教、抵抗、差別、孤独、死、教育、性暴力……。登場人物が背負ってしまっているそれらひとつひとつの苦しみは、簡単には解放されることはありません。他者はそれを簡単には共有することはできないけれど、思いを馳せることはできるはず。
深い怒り。長く続く怒り。幼い涙が乾き、そこに消えない灯のように燃え続ける怒り。
そしてどんなに苦しくても生きて行くこと。
わたしたちはこの時代のあふれるほどの理不尽に口を閉ざすことはできません。
これは暗く苦い祝祭オペラです。
アンケート
今にも通じる差別や問題点がこれでもか! と詰まったすごい作品。情報量も感情もあふれ出て、改めて人は一人では生きられないのだと感じました。言葉が追いつきませんが、とにかくすごい作品を観た……と思いました。たくさんの人に見てもらいたいです!
楽しい舞台でした。コミカルな動き、演出の中にも訴えかけるものが。体当たりの演技、歌、心に刺さってきますね。技術の高さに感動して聴かせていただきました。
大変熱量の高い舞台でした。言葉が歌が芝居が、ずうんと心の奥に響きました。偏見や差別をはらんだ偽りの正義を押し通すと戦争になる。現在の私たちにも言えることだと思いました。
難しい重いテーマを、すばらしく伝えて頂いてすごかったです。胸にズッシリ、感動しました。
公演評
痛みと苦闘描く群像劇の迫力
登場人物それぞれの痛みと苦闘がベルとロシナンテを軸に、群像劇としてリアルに描かれていく。起伏豊かな物語展開のなかで特に印象に残るのは、サラが〈シェマー、イスラエル…〉と祈る場面。同じ人間なのに、なぜ仕事を奪われ、罪もないのに殺されなければならないのかと問いかける歌の、余情豊かな響きがいつまでも耳に残る。こんにゃく座50年の歩みが凝縮された作品となった。
(うたごえ新聞/小村公次)

多様な示唆を内包した作品
機関銃のように放たれる鄭の台詞は時代を超え、人間の根源に潜む闘争心や差別意識の虚しさをえぐり出す。LGBTQや社会の分断などコロナ禍長期化の世界が抱える今日の問題まで観客の意識をしっかりと運び、サティ風ともいえる萩の淡く繊細な音楽が、言葉を感情の海の中に溶かしていく。多様な示唆を内包した作品である。
(音楽の友/池田卓夫)
公演データ
公演日程
 2025年10月~11月、2026年4月~7月
上演時間
 2時間10分(休憩10分を含む)仕込み4時間・バラシ1.5時間
会場条件
 間口10.8m 奥行き9m ※体育館公演可能
人数
 18人(歌役者8人+楽士1人+スタッフ9人)
 ※体育館公演の場合、15人(歌役者8人+楽士1人+スタッフ6人)
移動方法
 電車移動・運搬トラック1台

舞台写真
動画


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