賢治ソング劇場
♪序詞 - オペラシアターこんにゃく座
2009年5月5日
東京文化会館小ホール
百花連唱~うたのくさぐさ~歌います より
「序詞」
宮澤賢治:詩
林光:曲
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『注文の多い料理店』序
わたしたちは、氷砂糖をほしいくらいもたないでも、きれいにすきとおった風をたべ、桃いろのうつくしい朝の日光をのむことができます。
またわたくしは、はたけや森の中で、ひどいぼろぼろのきものが、いちばんすばらしいびろうどや羅紗や、宝石いりのきものに、かわっているのをたびたび見ました。
わたくしは、そういうきれいなたべものやきものをすきです。
これらのわたくしのおはなしは、みんな林や野はらや鉄道線路やらで、虹や月あかりからもらってきたのです。
ほんとうに、かしわばやしの青い夕方を、ひとりで通りかかったり、十一月の山の風のなかに、ふるえながら立ったりしますと、もうどうしてもこんな気がしてしかたないのです。ほんとうにもう、どうしてもこんなことがあるようでしかたないということを、わたくしはそのとおり書いたまでです。
ですから、これらのなかには、あなたのためになるところもあるでしょうし、ただそれっきりのところもあるでしょうが、わたくしには、そのみわけがよくつきません。なんのことだか、わけのわからないところもあるでしょうが、そんなところは、わたくしにもまた、わけがわからないのです。
けれども、わたくしは、これらのちいさなものがたりの幾きれかが、おしまい、あなたのすきとおったほんとうのたべものになることを、どんなにねがうかわかりません。
大正十二年十二月二十日
宮澤賢治
♪序詞〈合唱〉
(2009年・百花連唱歌いますより)
2016年6月27日公開
♪グランド電柱 - オペラシアターこんにゃく座
2012年12月28日
渋谷区文化総合センター大和田・伝承ホール
林光追悼コンサート「夢へ……」より
「グランド電柱」
宮澤賢治:詩
林光:曲
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グランド電柱
あめと雲とが地面に垂れ
すすきの赤い穂も洗はれ
野原はすがすがしくなったので
花巻グランド電柱の
百の碍子にあつまる雀
掠奪のために田にはいり
うるうるうるうると飛び
雲と雨とのひかりのなかを
すばやく花巻大三叉路の
百の碍子にもどる雀
♪グランド電柱〈合唱〉
(2012年・林光追悼コンサート 夢へ…より)
2016年7月27日公開
♪星めぐりの歌 - オペラシアターこんにゃく座
2014年2月15日
俳優座劇場
林光歌劇場 コンサートBより
「星めぐりの歌」
宮澤賢治:詩・曲
林光:編曲
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星めぐりの歌
あかいめだまの さそり
ひろげた鷲の つばさ
あをいめだまの 小いぬ、
ひかりのへびの とぐろ。
オリオンは高く うたひ
つゆとしもとを おとす、
アンドロメダの くもは
さかなのくちの かたち。
大ぐまのあしを きたに
五つのばした ところ。
小熊のひたいの うへは
そらのめぐりの めあて。
♪星めぐりの歌〈合唱〉
(2014年・林光歌劇場コンサートBより)
2016年8月27日公開
♪まなこをひらけば四月の風が - オペラシアターこんにゃく座
2009年5月5日
東京文化会館小ホール
百花連唱~うたのくさぐさ~歌います より
「まなこをひらけば四月の風が」
宮澤賢治:詩
萩京子:曲
歌・・・大石哲史、梅村博美
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まなこをひらけば四月の風が
瑠璃のそらから崩れて来るし
もみぢは嫩いうすあかい芽を
窓いっぱいにひろげてゐる
ゆふべからの血はまだとまらず
みんなはわたくしをみつめてゐる
またなまぬるく湧くものを
吐くひとの誰ともしらず
あをあをとわたくしはねむる
いままたひたひを過ぎ行くものは
あの死火山のいたゞきの
清麗な一列の風だ
♪まなこをひらけば四月の風が〈梅村博美、大石哲史〉
(2009年・百花連唱歌いますより)
2016年9月27日公開
♪すきとおるものが一列 - オペラシアターこんにゃく座
2012年12月28日
渋谷区文化総合センター大和田・伝承ホール
林光追悼コンサート「夢へ……」より
「すきとおるものが一列」
宮澤賢治:詩
林光:曲
歌・・・髙野うるお
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すきとほるものが一列わたくしのあとからくる
ひかり かすれ またうたふやうに小さな胸を張り
またほのぼのとかゞやいてわらふ
みんなすあしのこどもらだ
わたくしは白い雑嚢をぶらぶらさげて
きままな林務官のやうに
五月のきんいろの外光のなかで
口笛をふき歩調をふんでわるいだらうか
たのしい太陽系の春だ
みんなはしつたりうたつたり
はねあがつたりするがいい
(「小岩井農場」パート四より)
♪すきとおるものが一列〈髙野うるお〉
(2012年・林光追悼コンサート 夢へ…より)
2016年10月27日公開
♪お日さんに - オペラシアターこんにゃく座
2012年12月28日
渋谷区文化総合センター大和田・伝承ホール
林光追悼コンサート「夢へ……」より
「お日さんに…」
宮澤賢治:詩
林光:曲
歌・・・田中さとみ、佐藤久司、太田まり、武田茂、西田玲子、島田大翼
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お日さんに…
はんの木の
みどりみじんの葉の向ごさ
じゃらんじゃららんの
お日さん懸がる。
お日さんを
せながさしょえば はんの木も
くだげで光る
鉄のかんがみ。
お日さんは
はんの木ぎの向ごさ、降りでても
すすぎ、ぎんがぎが
まぶしまんぶし。
ぎんがぎがの
すすぎの中さ立ぢあがる
はんの木ぎのすねの
長なんがい、かげぼうし。
ぎんがぎがの
すすぎの底の日暮れかだ
苔の野はらを
蟻こも行がず。
ぎんがぎがの
すすぎの底でそっこりと
咲ぐうめばぢの
愛どしおえどし。
♪お日さんに〈田中さとみ、佐藤久司、太田まり、武田茂、西田玲子、島田大翼〉
(2012年・林光追悼コンサート 夢へ…より)
2016年11月27日公開
♪すきとおってゆれているのは - オペラシアターこんにゃく座
2014年2月15日
俳優座劇場
林光歌劇場 コンサートBより
「すきとおってゆれているのは」
宮澤賢治:詩
林光:曲
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「すきとおってゆれているのは」
すきとほってゆれてゐるのは
さっきの剽悍な四本のさくら
わたくしはそれを知ってゐるけれども
眼にははっきり見てゐない
ユリアがわたくしの左を行く
大きな紺いろの瞳をりんと張って
ユリアがわたくしの左を行く
ペムペルがわたくしの右にゐる
明るい雨がこんなにたのしくそそぐのに
馬車が行く 馬はぬれて黒い
ひとはくるまに立って行く
すべてさびしさと悲傷とを焚いて
ひとは透明な軋道をすすむ
ラリックス ラリックス いよいよ青く
雲はますます縮れてひかり
わたくしはかっきりみちをまがる
(「小岩井農場」パート九より)
♪すきとおってゆれているのは〈川鍋節雄〉
(2014年・林光歌劇場コンサートBより)
2016年12月27日公開
♪岩手軽便鉄道の一月 - オペラシアターこんにゃく座
2012年12月28日
渋谷区文化総合センター大和田・伝承ホール
林光追悼コンサート「夢へ……」より
「岩手軽便鉄道の一月」
宮澤賢治:詩
林光:曲
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岩手軽便鉄道の一月
ぴかぴかぴかぴか田圃の雪がひかってくる
河岸の樹がみなまっ白に凍ってゐる
よう くるみの木 ジュグランダー 鏡を吊し
よう かはやなぎ サリックスランダー 鏡を吊し
はんのき アルヌスランダー 鏡鏡鏡鏡をつるし
からまつ ラリクスランダー 鏡をつるし
グランド電柱 フサランダー 鏡をつるし
さはぐるみ ジュグランダー 鏡を吊し
桑の木 モルスランダー 鏡を……
ははは 汽車(こっち)がたうたうなゝめに列をよこぎったので
桑の氷華はふさふさ風にひかって落ちる
注:[鏡鏡鏡鏡]は、1文字分の中に[鏡]という文字が上下二段に積み重なって4個書かれている。
♪岩手軽便鉄道の一月〈合唱〉
(2012年・林光追悼コンサート 夢へ…より)
2017年1月27日公開
♪風がおもてで呼んでゐる - オペラシアターこんにゃく座
2009年5月5日
東京文化会館小ホール
百花連唱~うたのくさぐさ~歌います より
「風がおもてで呼んでゐる」
宮澤賢治:詩
萩京子:曲
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「風がおもてで呼んでゐる」
風がおもてで呼んでゐる
「さあ起きて
赤いシャッツと
いつものぼろぼろの外套を着て
早くおもてへ出て来るんだ」と
風が交々叫んでゐる
「おれたちはみな
おまへの出るのを迎へるために
おまへのすきなみぞれの粒を
横ぞっぱうに飛ばしてゐる
おまへも早く飛びだして来て
あすこの稜ある巌の上
葉のない黒い林のなかで
うつくしいソプラノをもった
おれたちのなかのひとりと
約束通り結婚しろ」と
繰り返し繰り返し
風がおもてで叫んでゐる
♪風がおもてで呼んでゐる〈男声〉
(2009年・百花連唱歌いますより)
2017年2月27日公開
♪ポラーノの広場の歌 - オペラシアターこんにゃく座
2014年2月15日
俳優座劇場
林光歌劇場 コンサートBより
「ポラーノの広場の歌」
宮澤賢治:詩
林光:曲
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ポラーノの広場の歌
つめくさ灯ともす 夜のひろば
むかしのラルゴを うたひかはし
雲をもどよもし 夜風にわすれて
とりいれまぢかに 年ようれぬ
まさしき願ひに いさかふ友
銀河のかなたに ともに笑ひ
なべてのなやみを たきゞともしつゝ
はえある世界を ともに作らん
♪ポラーノの広場の歌〈合唱〉
(2014年・林光歌劇場コンサートBより)
2017年3月27日公開